マジックアワー 魔法の時
- KOJI Nishimura
- 3月5日
- 読了時間: 4分
更新日:4 時間前
太陽が沈んだ直後、あるいは昇る直前。空は一瞬だけ、奇跡のような色彩を見せてくれます。昼でも夜でもない、光と闇が混ざり合うわずかな時間。

この特別なひとときを、世界中で「マジックアワー」と呼びます。マジックアワーとは何か、その名前の由来や現象の仕組み、そしてこの時間が私たちにもたらす心の変化について、総括的な意味も込めて考えてみたいと思います。
マジックアワーとは
昼と夜のあいだに訪れる奇跡
マジックアワーとは、太陽が地平線の下に沈んだあと、あるいは地平線下から昇る直前の時間帯を指します。日没後や日の出前、おおよそ30分ほどの短い時間。この間、空は直接の太陽光を受けず、間接光によってさまざまな色に染まります。
赤、橙、黄、紫、青と色は刻々と移ろい、空気そのものが光を抱いているかのような幻想的な光景が広がります。
「マジックアワー」という呼び名の由来
この時間帯を「マジックアワー(Magic Hour)」と呼ぶようになったのは、主に映画や写真の世界からです。直射日光がないことで、影が柔らかく、色彩が豊かで、被写体が最も美しく映える。そんな奇跡的な条件がそろうため、撮影者たちにとってまさに「魔法の時間」となったのです。
日本では「黄昏時(たそがれどき)」や「逢魔が時(おうまがとき)」とも呼ばれ、古来から特別な時間帯として意識されてきました。
マジックアワーの色彩変化
赤から青へ、刻々と変わる空
マジックアワーの空は、単一の色ではありません。夕陽が沈んだ直後、空の低い部分は赤や橙に染まり、やがて紫から群青へと移ろい、最後は深い夜の青へと溶け込んでいきます。

この色彩のグラデーションは、太陽光が大気中の粒子に散乱しながら、波長の長い赤い光から、短い青い光へと移り変わる現象によって生まれます。そのなめらかな移行こそが、マジックアワーにしか見られない“空の魔法”なのです。
空全体が光源になる瞬間
マジックアワーの特徴は、単に色が美しいだけではありません。空全体が、まるで巨大な光源のようになり、地上のすべてのものを柔らかく包み込みます。
影は柔らかく、色彩は深く、世界が静かに光る、そんな奇跡的な光景に出合えるのです。
マジックアワーが心に与える影響
移ろいへの感受性を呼び覚ます
マジックアワーに出会うとき、私たちは自然と心を静め、時間の流れに耳を澄ますようになります。それは、目まぐるしく変わる現代の時間感覚とは異なる、「移ろうこと」そのものを愛でる感受性を呼び覚ます体験です。
茜色、菖蒲色、黄金色、群青色。これまで見てきた色たちが、すべてこのマジックアワーに集約され、そして静かに夜へと溶けていく。そんな瞬間に立ち会うとき、私たちはきっと、「変わること」を恐れず、「今この瞬間」を深く受け入れることができるのでしょう。
一瞬の美しさに立ち止まる勇気
マジックアワーは長くは続きません。だからこそ、ふと立ち止まり空を見上げる、そんな小さな勇気が必要です。

追われるように生きる日々のなかで、ほんのわずかな時間、自然の美しさに身をゆだねる。それは、現代を生きる私たちにとって、かけがえのない心のリセットになるはずです。
光と影の狭間で
「すべての美しいものは、一瞬のうちに通り過ぎる。しかし、その一瞬にこそ永遠が宿る。」
アンドレ・ジッド(André Gide/フランス/作家/1869–1951)
ジッドのこの言葉のように、マジックアワーもまた、刹那の中に永遠を感じさせる特別な時間なのかもしれません。
空の魔法に出会うために
マジックアワーは、何も準備しなくても、特別な場所に行かなくても、ふとした日常のなかで出会うことができます。大切なのは、その瞬間を受け止める心の余白を持つこと。
今日もまた、太陽が沈み、空がゆっくりと色を変えるとき。その変わりゆく光の中に、私たち自身の小さな物語も、そっと染み込んでいくのかもしれません。
参考文献・参考資料
日本天文協会「マジックアワーと大気光学現象」https://www.tenkyo.jp/research/magic_hour
マジックアワー撮影の光学理論(東京大学 地球惑星科学研究室)https://www.u-tokyo.ac.jp/research/magic_light
アンドレ・ジッド著『瞬間と永遠』https://www.hakusuisha.co.jp/book/b270922.html
色彩心理学における夕焼けの効果(京都大学 環境心理学研究室)https://www.kyoto-u.ac.jp/research/sunset_emotion