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群青 闇に近い青色

更新日:10 時間前

日が沈んだあとの空に、深く静かに広がる青。



それは、ただの「青」ではない。どこか闇に近い、けれど完全な黒ではない。そんな微妙な色の名前を、私たちは「群青」と呼びます。日本独特の色彩表現である「群青」という色について、その由来や特徴、そして似た色との違いを紐解きながら、その美しさと奥深さを考えてみたいと思います。



群青という色の由来


ラピスラズリから生まれた青


群青(ぐんじょう)は、もともと天然の鉱石「ラピスラズリ」から作られる顔料に由来します。古代から中世にかけて、ラピスラズリは非常に高価な鉱物とされ、「ウルトラマリン(海の彼方から来た青)」と呼ばれ、絵画や宗教美術に用いられてきました。


日本には奈良時代にシルクロードを通じて伝わり、やがて日本独自の色感覚の中で「群青」という名が定着していきます。「群」という字が示すとおり、単一ではなく、微妙な濃淡を含んだ深い青、それが群青です。


仏教美術と群青の関係


日本において群青は、特に仏教美術において重宝されました。仏像の衣や天蓋、曼荼羅の背景などに、深い精神性と静謐さを表現するために群青が使われたのです。ただの装飾ではない、祈りの色、精神の色。それが日本における群青の始まりでした。



群青という色の特徴


闇と隣り合う青


群青は、明るい青ではありません。どこか闇を内包しているような、静かで重みのある青。

夕暮れから夜にかけての空、深海の底、影の中にたたずむ静かな青。それらに似た、深遠な色合いを持っています。



光を受けても華やかさを放つのではなく、むしろ光を吸い込むような、そんな性質が群青の特徴です。


移ろいを許容する色


群青は、角度や光の加減によって、その表情を変えます。濃く見えたり、柔らかく見えたり、時には限りなく黒に近づいたり。固定された色ではなく、常に揺れ動く色。それが、群青の最大の魅力なのかもしれません。



群青とネイビーの違い


色味の違い


ネイビー(navy)は、英語圏で使われる「濃紺」の色名で、もともとはイギリス海軍の制服に由来します。ネイビーは基本的に、黒にかなり近い、強い青味を持った紺色です。


これに対して群青は、ネイビーよりもやや明るく、紫みを含んだ深い青。ネイビーが「重厚さ」や「堅実さ」をイメージさせるのに対し、群青は「深遠さ」や「精神性」を感じさせる色だと言えるでしょう。


文化背景の違い


また、ネイビーは実用性や機能性を重視した制服文化に根差していますが、群青はあくまでも「美しさ」や「象徴性」を求めた芸術文化に由来しています。

この背景の違いが、色に込められた意味や感じ方にも微妙な差を生み出しているのです。



群青が心に与える影響


静寂と深みをもたらす


群青は、私たちの心に「静けさ」や「深み」をもたらします。

色彩心理学的にも、青系統の色はリラックス効果や集中力を高める作用があるとされていますが、群青はその中でも特に、精神を内省へと導く力が強いといわれています。


夕暮れの空を見上げて、自然と無言になってしまう。そんな感覚は、群青の持つ心理的な影響のひとつなのかもしれません。


余白と想像を許す色


群青は、決してすべてを語り尽くす色ではありません。むしろ余白を残し、見る者に想像を委ねるような、静かな余韻をもたらします。それは、喧騒に満ちた現代において、静かに心を整えるための色彩の力なのかもしれません。



青は思索の色


青は、思索の果てにたどり着く色だ。」 ジョルジュ・バタイユ(Georges Bataille/フランス/作家・哲学者/1897–1962)


バタイユのこの言葉のように、群青は単なる色彩以上のもの。心を深く沈め、そして深く問いかける存在なのかもしれません。



群青に包まれる時間


群青の空の下に立つとき、私たちは自然と声を潜め、呼吸をゆっくりと深くします。

色が心に語りかけ、心が色に応える、そんな静かな対話の時間が、現代人にとってはとても貴重なものになっているのではないでしょうか。


群青の深みを感じるとき、私たちは、目に見える世界の奥に、まだ見ぬ拡がりがあることを信じられるのかもしれません。




参考文献・参考資料



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