定点で観る 動かないから解ること
- KOJI Nishimura
- 2月12日
- 読了時間: 4分
更新日:7 日前
変化の速い時代にあって、私たちはつねに“動くこと”を求められています。流行はめまぐるしく変わり、情報は次々に更新され、世の中のスピードに合わせるように、自分自身も何かを変え続けなければならない、そんな感覚に追われる日々。

だからこそ「定点」という視点を持つことが、大切になってきているのではないでしょうか。同じ場所に立ち、同じ時間に、同じものを見つめる。そこに込められた意味は、想像以上に深く、豊かなものかもしれません。
「定点」という行為が私たちにもたらす思索や気づき、そして現代におけるその価値について綴ってみたいと思います。
「定点」は、視点であり軸でもある
視点がぶれると本質がぼやける
風景を写真に収めるとき、カメラをどこに構えるかで、写るものは大きく変わります。視点が定まっていなければ、構図もピントもずれてしまい、何を伝えたいのかがわからなくなるります。それは、日々の暮らしや考え方にも通じることかもしれません。
「何を見ているのか」ではなく「どこから見ているのか」。その“立ち位置”が曖昧だと、目の前の出来事の輪郭もはっきりとは見えてこないように感じます。
だからこそ、自分の中に一本の“定点”を持つことは、物事の本質をとらえるためにとても大切な姿勢なのだと思います。
観察とは“同じ場所”にとどまること
新しいものを求めて動き続けることも、もちろん必要です。しかし、変わらないものを見つめ続けることでしか得られない深さも、確かに存在します。
同じ時間、同じ場所に立ち続けることで、はじめて見えてくる変化があります。

それは、移ろう季節の光だったり、人の表情の微細な変化だったり、自分自身の心の揺れだったり。動いていては見えなかったものが、“定点”に立つことで、ゆっくりと浮かび上がってくるのです。
「定点観察」が教えてくれること
毎日見ているから毎日違う
私は海の見える小さな岬を「定点」にしています。毎日同じ時間に、そこから海を眺めるだけ、それが日々の小さな習慣です。ところが、同じ場所で、同じ時間に、同じように見ていても「まったく同じ風景」には出合えません。
空の色、風の匂い、波の大きさ、それらは少しずつ違いながら、やがて季節という大きなうねりを描いていきます。違いを知るには、同じ視点を持ち続けなければならない。それは、定点だからこそ見えてくる“ゆるやかな変化”の尊さです。
移ろいの中に、普遍を見つける
定点観察は、変化を捉えるための手段ではありません。むしろ「何が変わらずにそこに在り続けているか」に気づくための行為だと思うのです。
自然の風景にしても、人との関係にしても、時代が変わってもなお残っていくもの。それが本質に近い“普遍”なのではないでしょうか。
動かずに見る勇気
「すべてのものは動く。しかし動かずに見ていなければその動きを見失う。」 岡潔(おか・きよし/日本/数学者・思想家/1901–1978)
こ の言葉は、まさに「定点」の精神そのものです。動くものを捉えるためには、自分が動いていてはならない。

同じ場所にとどまり、同じ角度から、同じ時間の流れを見守ることで、はじめてその本質に触れることができるのだと指してくれています。
定点に立つという選択
時代の流れが早くなるほどに、「動かないこと」は怠惰のように見られがちです。
けれど本当は、動かないという選択こそが、もっとも深い“観察”や“洞察”をもたらしてくれるのかもしれません。
同じ場所、同じ時間に、同じ風景を見つめる。そこに変化を見出すという静かな知性。
変わりゆく世界の中で、自分という軸を保ち、本質を見失わないために「定点」という視点を、これからも大切にしていきたいと考えています。
参考文献・参考資料
岡潔著『春宵十話』講談社学術文庫https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000191302
日本気象学会「定点観測による季節の変化研究」https://www.metsoc.jp/research/observation_fixedpoint
自然観察と心の安定に関する研究(東京大学 環境心理学研究室)https://www.u-tokyo.ac.jp/research/nature_focus
定点思考のすすめ(日本思想協会論集)https://www.nihonshiso.jp/journal/teiten_philosophy