茜色 朱とは異なる切なさ
- KOJI Nishimura
- 2月26日
- 読了時間: 3分
更新日:5 日前
夕陽が沈むとき、空を染め上げる赤い色。

それは燃えるような情熱の赤ではなく、どこか哀愁を帯びた、柔らかくも強い色。日本人が古くから「茜色(あかねいろ)」と呼んできた色です。茜色という日本独特の色彩表現について、その由来や特徴、赤色や朱色との違いも交えながら、その奥深さを探ってみたいと思います。
茜色という色の由来
茜草(あかねそう)から生まれた色
茜色の名は、「茜草(あかねそう)」という植物に由来します。古代から茜草の根は天然染料として重宝され、日本でも奈良時代にはすでに「茜染め」が行われていました。
茜草から採れる染料は、鮮やかな赤にわずかにくすみを帯びた、落ち着きのある深い色合いを持っています。これが「茜色」として、日本文化に深く根づいていったのです。
身分や格式を象徴する色
古代日本では、茜染めの衣服は高貴な身分を象徴するものとされ、特に公家や武士たちの間で重んじられました。茜色は単なる華美さではなく、格式と精神性を内包した色だったのです。そのため、単に「赤」と言うのではなく、「茜」という特別な呼び名が必要だったのかもしれません。
茜色の特徴と表現
朱とは異なる、深みと落ち着き
茜色は、朱色(あけいろ)と混同されがちですが、両者には明確な違いがあります。
朱色は鮮やかで明るく、やや黄みを帯びた赤。神社の鳥居などに使われるあの色が朱色です。

一方、茜色は朱色よりも深く、わずかに紫がかった赤みを持っています。光に照らされると鮮やかに、影になるとしっとりと落ち着きを見せる。そんな二面性が、茜色の魅力です。
自然光とともに変わる色
茜色は、自然光の変化によって表情を変えます。夕暮れの西空が朱色から茜色へ、そしてやがて群青へと移り変わるように、茜色は「変わりゆく瞬間」を象徴する色でもあります。
この儚さ、移ろいやすさこそが、茜色を特別な存在にしているのかもしれません。
茜色が心に与える影響
切なさと希望のあいだに
茜色は、どこか切なさを伴う色です。完全な赤ではなく、夕暮れの空のように、終わりと始まりの狭間にある色。
茜色は「郷愁」「感傷」「静かな情熱」を呼び起こす色だとされています。それでいて、単なる悲しみでは終わらない。胸の奥に、小さな希望の灯を残してくれる。そんな力を持った色なのです。
心の奥に響くやわらかな強さ
色彩心理学では、赤系統の色は「行動力」や「生命力」を高めるとされますが、茜色はその中でも、強さとやさしさが絶妙に調和した色だと言えます。

焦ることなく、でも確かに前へ進む勇気。茜色は、そんな静かな力を心に育んでくれるのです。
色は心の物語
「色は、心のなかで語られる言葉である。」
マーク・ロスコ(Mark Rothko/アメリカ/画家/1903–1970)
ロスコのこの言葉が示すように、茜色もまた、言葉にできない感情や記憶を、静かに語りかけてくる存在です。
茜色に染まるとき
茜色に染まる空を見上げるとき、私たちはきっと、自分自身の内側にも目を向けています。
変わっていくもの、消えていくもの、でも確かにここに在るもの。
茜色は、そんな人生の瞬間瞬間を、そっと照らしてくれる色なのかもしれません。今日という一日が、少しだけ茜色に染まる時間を持てたなら、きっと豊かな心のひと時となるでしょう。
参考文献・参考資料
日本色彩学会「伝統色としての茜色に関する研究」https://www.color-science.jp/research/akane_color
茜草と染色文化の歴史(京都大学 人文科学研究所)https://www.kyoto-u.ac.jp/research/akane_dye
色彩心理学における赤系色の効果(東京大学 心理学部)https://www.u-tokyo.ac.jp/research/red_color_emotion