top of page

風景は記憶になる 旅先で出合う夕景

更新日:9 時間前

旅を重ねるたび、思い出に残るのは案外誰かとの会話や名所ではなく、ふと足を止めた時に目の前に広がった“風景”だったりします。



夕陽を見た瞬間の空の色、頬に触れた風の温度、遠くから聞こえてきた波の音。それらの感覚がひとつに溶け合い、記憶の中にそっと溶けていくような感覚があります。


特に、夕景は不思議な力を持っています。その土地の空気、その時の気持ち、すべてが一枚の絵のように心に焼きついて、時間が経っても色褪せることがありません。


私が旅先で出会った夕景のなかでも、とりわけ心に深く残っているふたつの場所。日本最南端の波照間島と、最西端の与那国島での体験を通して、「風景が記憶になる」ということの意味を見つめてみたいと思います。



日本最西端と最南端での夕陽


日本最西端 与那国島


日本で最も西にある与那国島。断崖の続く西崎(いりざき)での、水平線に沈んだ太陽が創る時間は、なんとも言い難い芸術的な瞬間がそこにはありました。

それはただの風景ではなく「今日という日が終わること」が、確かな意味として心に刻まれるような瞬間でした。



最果てで感じる“終わり”の豊かさ


最西端の夕景は「終わり」を感じさせる風景でした。それは寂しさを伴いながら、静かな納得と満ち足りた余韻を伴うものでした。



日本最南端 波照間島


日本最南端の波照間島にあるニシ浜は、文字通り西へ向いているビーチ。その砂浜の夕暮れ時には、観光客や地元の人もに集まり、温かで優しい時間が流れていました。 風の柔らかさ、光のにじみ、波のやさしい音。そのすべてが、静かに胸に沁みてくるようでした。



境界のない場所に立つということ


波照間島の夕景には、“温かい終わり”という印象が残っています。

海と空が溶け合い、どこまでも続いているような空間の中で、「いま、ここにいる」ということが、自然と自分の中に落ちてくるようでした。


夕陽が沈む時間を、ひとつの儀式のように、誰もが静かに見守っている。その連帯感もまた、かけがえのない風景の一部だったのかもしれません。



心の中のアルバムに残る風景


風景は、そのときの心を映す鏡である。」

カール・グスタフ・ユング(Carl Gustav Jung/スイス/心理学者/1875–1961)


この言葉が示すように、旅先で目にする夕景は、ただの自然ではなく、その時々の私たちの心を反映した“内面の風景”でもあるのかもしれません。


だからこそ、同じ夕陽を見ても、受け取る印象は人によって、また時によって違います。

波照間や与那国で見た夕景が、今も私の中で強く残っているのは、そのときの心が、それだけ何かを求めていたからかもしれません。



風景は、記憶の中で色づいていく


旅の途中でふと出会う風景は、そのときはただの一場面にすぎないかもしれません。けれど、月日が経ってもふいに思い出す景色には、その人の“生きた時間”が染み込んでいます。


波照間島と与那国島で見た夕景は、私にとってそんな風景です。地図では語り尽くせない感情の記憶。それが、旅の本質なのではないでしょうか。


これからまた新しい旅に出たとき、どんな夕景に出会えるのか。そんな思いを胸に、私はまた風景の中へと歩き出していきたいと思います。




参考文献・参考資料



bottom of page