潮騒に包まれて 五感で感じる癒しの時間
- KOJI Nishimura
- 1月21日
- 読了時間: 4分
更新日:5 日前
海辺に立つと、まず耳に届くのは波の音。ざざん、ざざんと規則的に繰り返される潮騒が、まるで深い呼吸のように心を整えてくれるのを感じます。

この場所では、目に見える風景だけでなく、音や香り、肌に触れる風まで、すべてが癒しとして五感に働きかけてくれます。
海辺で五感がどのように刺激され、心と身体をやわらかく包み込んでくれるのか。自然のなかで感じた「癒しの本質」を綴ってみたいと思います。
聞こえてくる“揺らぎ”の音
潮騒がつくる、こころのリズム
波の音には、人の心拍や呼吸と似た“ゆらぎ”があるといわれています。このゆるやかで不規則なリズムが、副交感神経を優位にし、私たちの緊張をほどいてくれるのです。
都会の生活では、無意識のうちに「音」に追われることが多くあります。緊急自動車のサイレン音、携帯の通知音、時間を知らせるアラーム音。それらは鋭く、刺激的で、知らず知らずのうちに私たちの神経を高ぶらせています。
その反動として、波の音はとてもやさしく、ゆっくりと心を静めてくれます。「今ここにいる」という感覚を、音が導いてくれるのです。
耳を澄ますことの大切さ
海辺では、耳を澄ませることで多くのことが聞こえてきます。 遠くで鳴くカモメの声、風が砂浜をなでる音、波に混ざる小石の転がる音。それらの重なりがひとつの“風景”を作り出しています。
音に意識を向けることで、私たちは“今”という時間をより深く味わうことができるのではないでしょうか。
目に映る広がりと変化
空と海の境界線が溶けるとき
海を眺めていると、地平線の向こうに吸い込まれるような気持ちになります。空と海が交わり、色彩がゆるやかに変化するその様子は、目に映るだけで心がほぐれていくようです。

とくに夕暮れ時には、空が茜色に染まり、波間にその色が反射してまた新たな表情を見せてくれます。自然のグラデーションには、人工的なものでは得られない深い安らぎがあるように思います。
動きのある静寂
海には静けさがありますが、それは“止まっている”のではなく“絶えず変化している静けさ”です。
波の揺れ、雲の流れ、潮の満ち引き、すべてがゆっくりとですが動き続けています。
その変化を目で追いながら、自分の内側もまた、少しずつ落ち着きを取り戻していくのを感じます。
香りと肌で感じる自然の存在
潮の香りが記憶をゆさぶる
潮の香りには、不思議な懐かしさがあります。子どものころに訪れた海、誰かと歩いた浜辺。そんな記憶がふと呼び起こされることもあるのではないでしょうか。
嗅覚は、五感の中でもとりわけ記憶と感情に直結するといわれています。だからこそ、潮の香りには「その人だけの思い出」がそっと眠っているのかもしれません。
風を肌で感じるとき
海辺の風は、湿り気を含んでやわらかく、どこか抱きしめられるような優しさがあります。
その風に吹かれていると、肩の力が抜け、呼吸も深くなっていくのがわかります。

忙しない日々の中で、自分の身体の感覚に意識を向けることは意外と少ないものです。風を「肌で感じる」というシンプルな行為が、心身をゆるめるための大切な入り口になるのではないでしょうか。
五感が目覚める場所
「人間は自然に戻るとき、本当の自分に出会う。」
ジャン=ジャック・ルソー(Jean-Jacques Rousseau/フランス/思想家・教育者/1712–1778)
この言葉の通り、自然の中に身を置いたとき、私たちは余計なものが削ぎ落とされ、ありのままの感覚を取り戻していくように思います。
海辺という場所は、まさにそのきっかけを与えてくれる“感覚の再起動地点”のような存在ではないでしょうか。
自分を感じる時間を海で
五感が研ぎ澄まされる場所にいると、自分の内側の声が、少しずつ聞こえてきます。
海に行く理由は、誰かと話すためでも、何かをするためでもなく、「自分に戻る」ためなのかもしれません。
潮騒に包まれながら、音を聴き、風を感じ、空の色を眺める。そのすべてが、私たちに必要な癒しなのではないかと感じています。
何も特別なことがなくても、ただ“感じる”時間が、心を満たしてくれるのではないでしょうか。
参考文献・参考資料
ルソー著『エミール』岩波書店
潮騒の心理的効果に関する研究(日本海洋心理学会)https://marine-psy.jp/research/sea_sound_emotion
自然環境と五感刺激の相関(環境心理学ジャーナル)https://jepa.gr.jp/publication/2021/senses_nature
嗅覚と記憶の結びつき(日本行動科学研究会)https://jbsr.jp/olfactory_memory_study2020