夕陽を見て心地よく感じるのはなぜなのか、刻一刻と色彩変化をとげる夕暮れ時に感じた疑問を解消するために、いろいろな文献や自身の経験と実感を基にまとめてみました。体内時計、色彩による心理的影響、ホルモンの分泌など、心地いいと感じる根拠はいくつかありますが、まとめた後に感じているのは、科学的な根拠の有無に関わらず、心地いいと当人が感じていれば、それは真理だということです。人工的な構造物が視界から消えて、夕陽と夕陽が彩る空間を見ていること、行為そのものがきっと心地いいのだとも感じています。
夕陽とは
夕陽と夕日の違い
夕陽と夕日、どちらも同じように「ゆうひ」と読みますが、なにが違うのかというと基本的には同じようです。ただ「常用漢字表」で認められている音訓の中には、「陽」を「ひ」と読む訓読みはないのです。
夕陽とは夕方の太陽のこと
「日」にも「陽」にも、それぞれ英語の the Sun の意味があるので、どちらも間違いではないようですが、「日」の方には day という意味もあります。「陽」の方は the Sun 以外に意味があまりないのに加えて「太陽」を始め「陽気」「陽春」などの熟語もあります。このブログでは基本的には「陽が暮れる」として「夕陽」と表記することにします。
夕陽の色は時間や季節で変わる
夕陽の照射角は昼間とは違って、大気圏を斜めに差し込むために、光の大気路程(光が通過する大気の厚さのこと)が長くなります。その長さの違いによって、一番強く散乱する光の色が異なってきます。西空は、大気路程の長い地平線付近から、上方に向かって赤・黄・浅黄・緑・青・紫へと染まり、そして太陽が沈むにつれてそれらの色が移り変わるというスペクタルが繰り広げられます。
夏の夕陽は赤く冬は黄色に
夏の夕陽は、赤系統の色が多くなり、冬は黄色や橙色が多くなります。これは、夏は海からの南風が吹くことで湿度も高く、浮遊する塵や微小水滴が多くなるため、赤系統の光を多く散乱し赤く染まります。
冬の夕陽は、北西の乾いた季節風が吹くため、大気の塵が吹き払われ、水蒸気も少ないので、赤系統の光の散乱が弱くなり、黄色や橙色の夕陽になります。このように、時間や季節によって、夕陽の色は変わるようです。
夕陽が大きく見える
「今日の夕陽は大きかったね」というような話を聞いたことはないでしょうか。実際に、夕陽が大きく見える経験をされた方も多くいらっしゃるのと思います。では、本当に夕陽は大きくなっているのか、というとそんなことはなく太陽の大きさはいつも同じです。
では、なぜ大きく見えるのかという疑問が残りますが、それは私たちの錯覚によるものということです。この大きく見えるというのは、夕陽と同じように朝陽があります。この夕陽と朝陽は、地上付近に太陽があることから、山や建物など他の比較できる物体が視野にあることで、大きさを錯覚してしまうというのが現在の見解となっています。少し前までは、角度による屈折という説もあったようですが今では否定されています。
夕陽を見るとなぜ安穏な気持ちになるのか
人間の概日リズムが影響
生物は、地球の自転による24時間周期の昼夜変化に同調して、ほぼ1日の周期で体内環境を変化させる機能を持っているようです。人間においても、体温やホルモン分泌など身体の基本的な機能は、約24時間のリズムを示すことがわかっています。この約24時間周期のリズムは概日リズム(サーカディアンリズム)と呼ばれています。
概日リズムは、光や温度変化のない条件で、安静を保った状態においても認められることから、生物は体内に時計機構をもっていることが明らかとなり、これを体内時計(生物時計)と呼ばれています。参考:厚生労働省 e-ヘルスネット
体内時計は太陽の動きに同調
体内時計は、概日リズムという地球の自転周期に同調しています。太陽が現れる朝には、体内時計は身体を起こそうとします。そして、太陽が沈んだ夜には、身体を休めようとします。この働きは、いくつかの遺伝子が24時間周期で、結合と分解を繰り返すというサイクルが基になっているようですが、太陽のもとで進化をしてきた生物が培ってきたものなのでしょう。
太陽が沈むと身体はリラックスモード
太陽が沈むと気温も下がり風も変わります、昼の世界から夜の世界への転換点が陽の入りです。概日リズムによって、私たちも交感神経優位で覚醒していた昼の時間から、副交感神経が優位になってくる夜の時間へと替り始めるのが陽暮れ時です。ですから、夕陽が心地よく感じるのは、体内時計のリズムと調しているということなのだと思います。
夕陽の色彩がもたらす開放感
子どもたちの描いた夕陽の画というのは、たいていオレンジ色になっています。なぜオレンジ色に見えるのか、という点については太陽光の照射角だと上述していますが、この色彩が心理にもたらす効果とはどういうものなのでしょうか。
夕陽の代表的な色となるオレンジは、ビタミンカラーとも呼ばれて多くの人が好意的に感じる色のようです。赤色と黄色の中間色となり「喜び」「エネルギー」「開放感」「親しみ」などを感じ、ポジティブカラーともいわれています。
夕暮れの広大な空間変化
夕陽を見ながら、実は夕陽を含む色彩が変化している広く大きな空間を見ていることに気づきす。その空間の色彩変化は、白熱色から暖色へ、そして寒色をへて、無彩色へと変わっていきます。夕陽は、空間の色彩変化の中心にいるのですが、周りの色彩変化によって際立たされていることが解ります。この沈む夕陽を眺めながら、無意識に広大な空間を感じることも、夕陽を見ていて心地よく感じるひとつです。
夕方の太陽を見ると幸せホルモンを分泌
朝陽を浴びると幸せホルモン「セロトニン」が分泌されるというのは良く耳にしますが、実は朝陽だけでなく、太陽光を30分ほど浴びるとセロトニンが分泌されるので、夕陽を浴びていても、幸せホルモンが分泌されるのです。 蛇足とはなりますが、「朝陽を浴びろ」というのは、体内時計は1日の始まりを感じてから14時間後には眠りに誘うように動いていますから、夜しっかりと眠るという規則正しい生活を送るためには、体内時計と同調した行動をして、必要なホルモン分泌を促したほうがいいということのようです。
夕陽を見に絶景の岬へ
私の住んでいる神奈川県三浦市のとある鼻、鼻とは岬のことで、昔は鼻と呼んでいたそうです。実際に、日本各地に〇〇の鼻という名称の岬はたくさんあります。この岬にある海抜10㍍ほどの高台から見る夕陽は絶景です。夕陽が心地よい理由について、いろいろと述べてきましたが、やはり感じ方は人それぞれ。理由などつけなくても、当人にとって心地よければそれでいいというのが真理だと感じています。
自然豊かな屋外にて、自然の移ろいに任せたゆったりとした時間の使い方ができること。これこそが、人の求める豊かな暮らしなのかもしれないなと岬の高台から感じる日々です。
夕陽は記憶だけでなく写真にも残したい
ここで使っている写真は、ほとんど私が記録のために撮りためてきたものです。夕暮れ時の色彩変化は本当に刹那です、少し目を離した瞬間に空気の色は変わっていたりします。美しい、と感じた一瞬を共有するため、またいつかその瞬間を振り返るためにも、物理的な形で記録しておくこともひとつの楽しみでもあります。撮った写真を整理している時間もまた楽しいものです。
執筆 西村公志 海岸から見る夕陽が好きで神奈川県三浦市に移住。四季折々の夕陽を眺める中で感じたことは主業のマーケティングコンサルティングにも活きている。夕陽鑑賞スペシャリスト。
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